2015年6月5日金曜日

公開講座第5回目の内容 「統合ヨーロッパにおけるナショナリズムとグローバル化」

5回目は、横浜国立大学名誉教授の権上康男氏による「統合ヨーロッパにおけるナショナリズムとグローバル化です。

本講座は受講料無料、申し込み不要で、当日直接会場にお越しいただければ受講できます。
ぜひお気軽にお越しください。


全体のテーマは「現代の課題:グローバル化とナショナリズム―ヨーロッパおよび東アジア―」で、各回もそれに関連した内容になりますが、お好きな回だけ受講していただくことも可能です。




<第5回目概要>
7月4日(土)10時~12時 横浜商科大学つるみキャンパス1号館3階132教室
申し込み不要(当日直接会場にお越しください)、受講料無料


<要旨>
 欧州諸国はEUという統合組織に結集し、経済を中心にさまざまな領域で一体となって行動している。これらの国が統合を選択した理由の一つは、先の大戦の反省に立ち、偏狭なナショナリズムを克服することにあった。欧州はまさに人類の理想を実現したかに見えた。ところが現在、この欧州が3重の危機に直面している。すなわち、深刻化する移民問題、活発化する分離・独立運動、ギリシャ危機に象徴される域内経済の不均衡。

欧州の危機の背景には低成長、グローバル化、それに新自由主義がある。この3つは、1970年代に発生した石油危機と固定相場制の崩壊・変動相場制への移行という2つの歴史的事件に起源を発している。これを契機に、「栄光の」戦後史を支えた高成長が終り、完全雇用も福祉国家も死語になる。各国は新たな経済環境に適応すべく構造改革を実施したが、これにより、経済社会は市場志向性の強いものに改造された。ケインズ・モデルの社会から新自由主義モデルの社会への転換である。一方、変動相場制のおかげで資本の自由化が可能となり、グローバル化への道が開かれた。

 1990年代以降、グローバル化が加速するなかで先進諸国の経済(国民経済)は変質する。有力な企業が多国籍化し、グローバル市場でのシェア拡大を戦略の要に据えたからである。いまやグローバル経済が実態で、国民経済は仮象になろうとしている。こうして、ルールなきグローバル世界のルール(ジャングルの自由)が各国に持ち込まれる。経済領域であれ社会領域であれ、改革はもはや制度や基準を緩める方向でしか行われない。その結果、世界各地で所得格差や地域間格差が広がり、さらに、それらを背景にナショナリズムも台頭している。欧州の危機はこうした世界共通の問題の欧州における表れと言える。

かくてグローバリズムと新自由主義を正面から問わない限り、欧州をはじめ世界の国々が抱える問題は解決しない。この4月にフランスの経済学者トマ・ピケティが来日し、話題をさらった。日本のメディアは気づいていないが、彼の著書『20世紀の資本』の意義は、欧州の現実と学問的伝統を踏まえて、今日的課題に処方箋を示そうとしたことにある。アメリカ流の経済学の強い影響下にある日本で、ピケティの言説が新鮮な驚きをもって迎えられた理由はここにある。

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